丹後に残る浦島伝説
先人の願いと歴史の厚み
海の日に思う
あなたの心に残る昔話は何?
読者に尋ねた歴史雑誌の特集がある。1位は「桃太郎」、2位「かぐや姫」、3位が「浦島太郎」だった。浦島は「♬助けた亀に連れられて…」の歌でよく知られるが、その話の内容は時代とともに移り変わる。
物語の成立は遠く、飛鳥・奈良時代。主人公の浦嶋子(うらのしまこ)に釣られた亀が乙女になり、一緒に不老不死の理想郷を訪ねる。もとは、中国の神仙思想の影響を受けたストーリーだったとか(三浦佑之『浦島太郎の文学史』)。
中世になると、『御伽草子(おとぎぞうし)』で恩返しが強調され、太郎と乙姫は夫婦の神となる。江戸中期には歌舞伎の題材になり、長寿の縁起物で人気を博す。昔話として親しまれるのは、明治の作家・巌谷小波が御伽草子を下敷きに『浦島太郎』を書き、教科書に掲載されたためらしい。
浦島伝説といえば、丹後地域だろう。伊根町や京丹後市網野町に残り、浦嶋子を祭神とする浦嶋神社(伊根町)は、風土記などに記される古代の物語を今に伝える。近くの海には、浦嶋子が舟をつないだという「鯛釣(たいつり)岩」もある。
地元の漁師たちはその昔、夜明け前に明るく輝く金星を「たい(つり)ぼし」とも呼んだ。釣果を期待して、星に思いを寄せたと聞く。
「伝承はすべて真実とはいえないが、きらりと光る真実の断片を秘めている」
哲学者の故梅原猛さんの言葉を思う。伝承は先人たちの変わらない願いであり、歴史の厚みでもあろう。きょうは海の日。
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