丹後織物の新拠点
観光客や消費者に魅力を発信
織物工業組合内に

丹後地域を代表する絹織物「丹後ちりめん」などを観光客や消費者に紹介する「TANGO OPEN CENTER」(タンゴ・オープン・センター)」が、丹後織物工業組合(京丹後市大宮町)の敷地内に誕生した。多彩な製品や生産工程に触れられるのが特徴で、和装需要が落ち込む中、着物文化の再興と丹後織物の購買層拡大につなぐ切り札となるか注目される。
「待ち望んだ産業観光施設」「生産者と国内外の取引先を結ぶハブ(中核)になる」。オープン初日、同センターを見学した地元関係者ら約100人から期待の声が上がった。施設は直営店と、反物に仕上げる工程を公開する絹織物精練加工場で構成されている。
生産過程の一端を公開
これまで生産現場はあまり公開されていなかったが、こうした機能を設けた背景には丹後織物を取り巻く厳しい現状がある。丹後ちりめんの白生地の生産反数は2023年に14万7196反となり、1973年の約60分の1に落ち込んだ。
高齢化や後継者難による廃業も相次ぎ、23年度の組合の事業者数はピーク時(1975年度)の約1万件から518件に急減。組合の田茂井勇人理事長(60)は「丹後織物は日本文化を支える夢のある産業。技術力や商品価値に触れてもらい、ファンを増やしたい」と逆境を糧に意気込む。
加工場には見学用ルートを新設した。生糸に含まれる「セリシン」と呼ばれるタンパク質の一種や不純物を取り除く「精練」、精練で縮んだ白生地の幅や長さを整える「整理」、白生地の品質を点検する「検査」など8工程を巡る225メートルを歩きながら、スマートフォンで聞く音声ガイドを利用し、高い品質を生み出す生産現場の高度な技術や職人の心意気に直接触れられるのが特徴だ。
和装小物や生活用品も


一方、直営店には、伝統の織物の魅力に触れてもらおうと工夫された生活用品や和装小物など約40事業者による商品(約390点)がずらり。その一つが、「精練」を体験できるキット「カップチリメン」だ。丹後ちりめんは経(たて)糸と強い撚(よ)りをかけた緯(よこ)糸で織られ、精練で縮んだ生地に「シボ」と呼ばれる凹凸が現れ、光沢がしっとりした風合いを生む。遊び心あふれるキットはこの技法で織り上げた巾着袋をカップに注いだ熱湯に浸し、糊(のり)を除去するとシボが現れる仕組みで、工程の一端を体験してもらう。
高級なイメージがある丹後ちりめんを日常的に使ってもらうため、ポリエステルを素材に開発された財布や名刺入れ、バッグなど生活用品も。絹のショールなどファッション性と機能性を兼ね備えた商品は通気性が良く、軽い素材の特性を肌で感じられる。価格は2千~1万5千円が中心で、購入しやすい商品が並ぶのも魅力だ。
ただ、加工場の稼働に合わせるため、営業は祝日を除く月曜から金曜日の平日に限られている。老舗ホテルの女将で京丹後市観光公社の田中智子理事長(68)は「土日、祝日にも開館すれば、より多くの人に来てもらえるはず。丹後織物の歴史を学ぶ博物館的な機能も備われば」と今後に期待を寄せる。
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