2026.03.14|まち
卒業生へ祝福のエール
「羽ばたきバス」運行
コミさんの旅を重ねて
田中小実昌さんの紀行文「ほのぼの路線バスの旅」(中公文庫)
大のバス好きで知られた作家の田中小実昌さん、愛称コミさんにユニークな1冊がある。30年前に出版された紀行文で、東京から鹿児島まで20年かけて路線を乗り継いだ。
ただ楽しむだけで目的はない。心が窓から漂い出て開けっぴろげな陽の中に溶け込んでいく、と。いい景色や人々との出会いをゆるくつづる。
そんな旅も今はできないかもしれない。路線バスの相次ぐ廃止、減便である。沿線住民の減少に加えて運転手は5年後に3万人以上も不足するとか。事業者の対策だけでは追いつかず、国の支援で予約型や自動運転も登場した。
「羽ばたきバス」に乗り込む宮津天橋高の生徒たち(宮津市滝馬)
バスの車内に掲示された祝福メッセージ(与謝野町)
苦境の中、丹後地域では「羽ばたきバス」が走る。進学や就職で地元を離れる高校の卒業生を祝福、激励しようとバス会社が発案。通学利用が多い4両の車内に計約100人のメッセージを掲げた。
「沢山の方から頂いた恩を忘れずに誠実に歩んで下さい」「祝 いつでも帰っておいでーよ」―。生徒が通った京丹後市の施設のスタッフやコンビニの店長、社協職員らの手書きの言葉は優しく、ほほ笑ましい。
メッセージには卒業生への思いを込めた言葉がつづられている
乗り合いの旅路を愛したコミさんは、「旅の醍醐味は心ぼそい気持ち」とも書く。バスを通して人の温かさに気づき、見知らぬ世界へ。卒業生も、期待と不安が入り交じっていることだろう。その胸の奥に、地域の足は残り続ける。
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