丹後の「風に立つライオン」
同級生ら伝記絵本制作
生涯に触れ、利他を思う


シンガー・ソングライターのさだまさしさんの歌と小説に「風に立つライオン」がある。映画にもなり、ご存じの方も多いだろう。
モデルは、アフリカ・ケニアで1970年代、医療活動を続けた実在の日本人医師だ。現地の病院には内戦による負傷者が次々に運ばれ、子どもも多い。厳しい環境でも希望や信念を失わず、人々を包む優しさが胸を打つ。
そんなライオンの心は丹後にも息づく。京丹後市出身で外科医の故谷垣雄三さん。アフリカ・ニジェールで35年間地域医療に尽くし、私費で病院も建てた。没後7年になり、活動を支援した同級生らが集大成として伝記絵本『ドクター・タニ ひとつぶの麦』を作った。
谷垣さんの人柄と、これを伝えるパステル画は温かい。どんな患者も受け入れて年間千回を超える手術をし、貧しい国の医療の自立を目指す。「自分の命は自分以外の人のために捧げたい」。生涯を貫いたメッセージが響く。
2人に触れて、コロナ禍で注目された「利他」の言葉を思う。人と人のつながりによって自分も生かされ、敬意を持って他者を気遣う。患者に寄り添う原点であろう。
国境を越えたつながりは未来へも続く。さださんの小説では、医師の志をケニアの少年が継ぐ。丹後でも絵本が夢を育て、互いを思いやる。偉人の故郷として。
※伝記絵本『ドクター・タニ ひとつぶの麦』は非売品。京丹後市の小中学校に650冊贈られ、市内の図書館で閲覧できる。
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