2025.11.03|まち
ゆるやかな関係の読書会
つながりの中で心を耕す
文化の日に思う
朝倉かすみ著『よむよむかたる』
味わい深い一冊に出合った。今年の直木賞候補にもなった朝倉かすみさんの『よむよむかたる』。古民家カフェに集う高齢者6人の読書会を温かな筆致で描く。
メンバーたちは児童書の名作を朗読し、感想を語り合う。話題は自らの過去や死生観に及び、深い作品理解にもつながる。笑いあり、涙ありのゆるやかな関係の中で心を肥やす。
ちりめん街道の古民家カフェで開かれている読書会。感想を語り合い、課題本にまつわるランチも用意される(与謝野町加悦)
儒者伊藤仁斎の旧邸跡。白壁の蔵は当時のたたずまいを今に伝える(京都市上京区)
読書会の歴史は古く、江戸前期に京都で始まったとか。儒者伊藤仁斎が同志とともに文献を読む「会読(かいどく)」を行う。誰も対等に意見を交わし、異論に接して学びを深めた。後には解釈の粋を競う遊びの要素も入り、興味深い。
丹後・与謝野町の読書会は言葉を五感で味わう。今年で選定20年を迎えた重要伝統的建造物群保存地区「ちりめん街道」の古民家カフェで開かれ、町内外から10人前後が集まる。
課題本の感想のほか、印象に残った一文を書き合う。さらに、移住者の店主が内容や語句からイメージしてつくる特別ランチもある。芥川龍之介「羅生門」の際は干し魚の「下人御膳」など、舌で物語の奥行きを楽しんだ。
きょうは文化の日。英語のカルチャーには栽培という意味もある。それぞれの関心、やり方で自分の畑を耕す。小さくても、そんな集まりが周囲を潤し、滋味も豊かにする。どんな文化の種を育てますか。
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