2024.11.11|

“正真正銘”の間人ガニ
産地偽装防止へ
漁獲履歴可視化プレート導入

白のプレートと従来の緑のタグが付けられ、漁船から水揚げされる間人ガニ(京丹後市丹後町・間人漁港)

日本海の冬の味覚・ズワイガニ(松葉ガニ)漁の水揚げが9日、京丹後市と舞鶴市の漁港で始まった。4月に発覚した「間人(たいざ)ガニ」の産地偽装事件を受けた再発防止のため、京都府漁業協同組合は漁獲履歴を可視化するプレートを全国で初めて導入。価格の下落が懸念された間人地方卸売市場での初競りでは、例年並みの高値がついた。

漁解禁は6日だったが悪天候で出漁できず、府漁協の舞鶴、丹後、網野の各支所に所属する計10隻の漁船は8日午前に出港。丹後半島沖の漁場で操業した。

間人ガニで知られる間人漁港(京丹後市丹後町)では9日朝、5隻が帰港。漁師たちは船上で従来の緑色タグに加え、漁船ごとの通し番号やQRコードの入った白色のプレートを雄ガニに取り付けた。QRコードを読み込み、漁協のサイトで番号を検索すると、水揚げ日や船名が分かる。

「協進丸」船主の下戸壽さん(45)=京丹後市丹後町=は「順番通りにプレートを付ける作業は大変だった。プレートで正真正銘の間人ガニと分かってもらえる」と話す。

初日の水揚げは操業時間が長かったため、雄ガニが5隻合わせて前年の2倍以上の3758匹で、雌ガニは約1万6千匹だった。

初競りはこの日午後から京丹後、舞鶴両市の3地方卸売市場で行われた。最高値は間人市場の85万円(5匹)だった。漁期は雄ガニが来年3月20日まで、雌ガニは今年末まで続く。

偽装事件では、兵庫県産に間人ガニのタグを付けて販売した不正競争防止法違反などで、京丹後市の水産物販売会社元役員らが舞鶴簡裁から罰金の略式命令を受けた。

「見える化」で信頼回復へ 

競りの前、タグとプレートが付いているかを確かめる漁協職員(間人地方卸売市場)
白のプレートと従来の緑のタグが付いた間人ガニ

生きのいいズワイガニがずらりと並んだ間人市場での初競り。競りの前、漁業者は漁獲数やタグ、プレートの使用数を書いた用紙を京都府漁業協同組合に提出した。漁協職員は漁船ごとの通し番号が入った白色のプレートと、産地を示す緑色のタグの両方がカニに付いているかを確かめ、各漁船が出荷した数と照合した。

緑色のタグには「たいざガニ」と刻まれ、漁場近くの港で鮮度が良く、良質の証しだった。偽装事件では、水産物販売会社の役員が漁船関係者から入手したタグを他府県産に付け替えて販売。タグ管理は船主や船長任せで、府漁協は使用数や在庫を確認していなかった。事件を受け、府漁協あげて管理を厳格化し、再発防止に乗り出した。

府漁協の濱中貴志組織部長は「初日から漁獲量が多かったが、漁業者はスムーズにプレートを付けてくれて、ほっとしている。より自信を持って消費者にカニを届けられる」と語る。

競り値は例年並みとなり、仲買人の女性(63)は「偽装事件の影響はなさそう。京阪神のお客さんは水揚げを待ち望んでいた」と説明する。一方で、舞鶴市場では最高値が13万円(5匹)と昨年の半額だった。舞鶴水産流通協同組合の長崎寿夫理事長は「昨年より量が多く、兵庫県など近隣県では初競りが終わっているため、安くなった」とみる。

仲買人、鮮魚店の目利きPR

初競りで間人ガニを競り落とす仲買人たち

また、従来のブランド力に頼らず、仲買人や鮮魚店のプロの目で品質を保証する試みも京丹後市や宮津市で始まっている。

宮津市の「山一水産」は、間人漁港や兵庫県で水揚げされるズワイガニのサイズや身の詰まりなどを、仲買人の目利きで選び、独自の高級ブランド「蟹宝(かいほう)」として売り出す。専務の佐田野寛司さん(32)は「あの事件は、供給が少ない間人ガニへの需要が拡大して欠品してしまい、偽装につながった。産地にこだわらず、品質の担保されたカニを消費者や料理人に選んでほしい」と話す。

漁協をはじめ、漁師や仲買人、小売店が連携し、品質に責任を持つ。産地をあげた、厳しく、着実な取り組みが求められている。

観光 目立った影響なし 京丹後の旅館「例年通り」

冬の味覚・ズワイガニは、約180の宿泊施設のある京丹後市の観光業にとって不可欠の観光コンテンツだ。同市観光公社によると、「間人ガニ」の偽装事件で宿泊などへの目立った影響は出ていないという。

京丹後市の昨年の観光入り込み客数は、約180万人で観光消費額は88億円。舞鶴市は京丹後市並みの197万人だが、消費額は半分以下の41億円にとどまる。同観光公社は「カニがフックになって誘客に結びつき、京丹後の宿泊単価を押し上げている」と強調する。

同公社は、高級な間人ガニを提供する旅館は漁港のある丹後町内にほぼ限られており、観光スポットの温泉地では従来から、網野町や兵庫県産などのカニが用いられているため、事件の影響が少ないとみる。

間人ガニでもてなす旅館「昭恋館 よ志のや」=京丹後市丹後町=の福山勝久会長も、「事件当初は影響を心配したが、例年通りの予約状況。定番の間人ガニの料理を変わらず出したい」と話す。

プレートの装着など厳格な流通管理が導入されたことに対し、同観光公社の木村嘉充専務理事は「より安心して間人ガニを食べられるようになり、これを機に、ブランド力が増してくれたらうれしい」と期待する。

 

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