2025.03.12|

色濃く残る陣屋の風情
丹海バス「金刀比羅神社前」
ぶらり、界隈へ

①バス停で下車すると、今季一番の寒波で金刀比羅神社も雪景色となっていた(京丹後市峰山町泉)

江戸時代に峰山藩城下町だった京丹後市峰山町の市街地近くにある金刀比羅神社。丹後の織物業とその歴史・文化を物語る名所として知られる。神社かいわいを歩くと、今も色濃く残るかつての陣屋のお膝元だった古き良き街並みの風情や人情に出会えた。

人ひきつけるネコたち

②木島神社の前で向き合う一対の狛猫(金刀比羅神社境内)

丹後海陸交通のバス停「金刀比羅神社前」で下車すると、大鳥居と本殿へと続く参道、森の緑といった境内を眺望できる=写真①。

金比羅神社は、関ケ原の合戦後の1622年に成立、明治維新まで12代続いた峰山藩主・京極家とのゆかりが深い。1811年の神社創建にも関わった京極家から奉納された青銅製の灯籠が今も伝わる。

峰山藩で生まれた特産品が丹後ちりめんだ。創始者の一人、絹屋佐平治は江戸中期、京都西陣の機屋へ奉公し、独特の「シボ」を持ったちりめん織の技術を丹後に持ち帰った。その功績により、峰山藩主から「お召、ちりめんや」ののれんと「ちりめんや」の屋号、「森田治郎兵衛」の名を与えられた。丹後ちりめん発祥地と伝える「丹後ちりめん始祖」の石碑が神社前から北へ延びる道沿いに立っている。

境内には、参拝者をひきつけてやまないネコたちがいる。参道の石段を上ると出会えた。本殿手前に鎮座する、全国でも珍しい「狛猫」だ=写真②。りりしい顔で「ア」と口を開けて子猫を抱く猫と、「ウン」とうなずくように口を閉じて柔和な表情を浮かべる猫が向き合う「阿吽(あうん)の一対」だ。

江戸後期に養蚕家や糸商人が奉納したといい、脇阪卓爾宮司(57)によると、同神社一帯で秋に開かれるイベント「こまねこまつり」の始まった2016年ごろから知名度が高まったという。「遠方から訪れる猫好きのカップルや家族連れが増えている」。参拝者の求めに応じて23年秋から、お守りや絵馬に加え、狛猫をあしらった御朱印(初穂料1枚500円)の授与を始めた。

神社前の道路を隔てた向かい側に、老舗和洋菓子店「御菓子司 大道(だいどう)」がある=地図・写真③。名物は13年前から販売する「狛猫もなか」(1個180円)。愛らしい狛猫をモチーフにしたデザインが好評という。店主の大道美和さん(57)は「宮司や地元の方々から『土産物のお菓子ができないか』と要望があった。洋菓子職人の僕が、和菓子職人だった亡き父と相談して販売を始めた。今は、父の遺志を妻が受け継いで作っています」と話す。店の看板ならぬ「招き猫」だという。

③老舗和洋菓子店「御菓子司 大道」

「日本一」のアーケード街

④落ち着いた雰囲気のカフェ「TON」
⑤「日本一短いアーケード街」をうたう商店街「御旅市場」

整然とした街並みの市街地へと足を進めると、落ち着いた雰囲気のカフェ「TON」(同町泉)が見えてきた=写真④。半世紀前の創業という店内に、アマチュアのアート作品を紹介するサロンが設けられていた。3代目店主の山本恵子さん(69)が知人に作品展示を呼びかけたのをきっかけに、常連客も写真や絵画を持ち寄るようになった。今では出展者や来店客が自然と親しくなる場になっているという。

「地元のお客が大半だけど、京阪神や東京からの若いお客さんも来店される」とほほ笑みながら山本さんが教えてくれた。

街中をさらに進むと、全長約52メートルで「日本一短いアーケード街」をうたう商店街「御旅市場」(峰山町御旅)にたどり着いた=写真⑤。峰山御旅商店会の会長、中川芳隆さん(83)に、市場の歩みを教わった。

最盛期には18店舗が軒を連ねたが、地場産業の低迷や大型店出店の影響で閉店が相次ぎ、昨年末にアーケードにはわずか2店舗になった。それでも、昨夏に開店した植物専門店が新たな客層を呼び込み、にぎわい再生に希望をつないでいるという。

中川さんは「観光客や住民が集い、交流できる新たな『御旅横町』を近く設ける」と意欲を見せる。

町の歴史や産業の盛衰、そして人々の地元愛を感じる散策となった。

<足あと>

金刀比羅神社には狛猫をモチーフにしたお守り(初穂料700円)や絵馬(同)があり、イラストパネルは記念撮影スポットとなっている。

「御菓子司 大道」は上用まんじゅう(1個170円)ほか、洋菓子も販売。水曜休。

カフェ「TON」はホットコーヒー(450円)、モーニングセット3種類(600円から)などがある。木曜休。

 

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