2025.09.12|

「女工哀史」刊行100年
著者は丹後・与謝野出身
今秋、地元に文学碑建立

細井和喜蔵(日本近代文学館所有)=「細井和喜蔵を顕彰する会『女工哀史』から80年」あまのはしだて出版より 
過酷な労働現場を告発した本『女工哀史』

タイトルはよく聞くものの、著者は誰? そんな本の一つだろう。「女工哀史」の細井和喜蔵だ。出版、没後ともに今年で100年になる。

過酷な労働現場の代名詞ともいえ、内容は紡織工場の実態を告発したノンフィクション。和喜蔵は工場で働く傍ら執筆し、28歳で病死する。長時間労働や低賃金の問題以外にも筆は及び、セクハラやパワハラに敏感だったと、文芸評論家の斎藤美奈子さんはみる。

近年は斎藤さんの後押しもあり、和喜蔵の小説2作が岩波書店から復刊された。再評価の機運は高まり、出身地の丹後・与謝野町(旧加悦町加悦奥)ではこの秋、節目の年を記念して文学碑の建立も。地元の住民らが郷土の文筆家をたたえる。

約90年ぶりに復刊された和喜蔵著『奴隷』と『工場』
古里の与謝野町加悦奥に建つ「細井和喜蔵顕彰碑」。このそばに新たに文学碑が建立される

作家の三浦しをんさんに、「『女工哀史』に萌(も)える」と題するエッセーがある。小学生の頃の愛読書だったと語る友人に度肝を抜かれ、自身も読んでみた。

読後は、「たしかにこれはおもしろい!」。女性たちのプライベートな部分までちゃんと記してあり、何より胸を打たれたのは「著者の徹底した男女平等の視線だ」と。

同じく工女の悲劇を描いた映画「あゝ野麦峠」の地元の長野・岐阜は、聖地巡りなど観光PRに力を注ぐ。いろんな読み方、接し方があればいい。和喜蔵は現代の読者に何を語るのか。同郷の一人として、楽しみでもある。

 

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