2026.09.15|

天橋立「股のぞき」130年
あちら側はどう見える?
視点を変える面白さ

股のぞきについて紀行文に書いた幸田露伴(講談社刊『日本現代文學全集6 幸田露伴集』より)

淡彩画のように淡く見えた景色が一転、油絵のパノラマの如(ごと)くー。幸田露伴の紀行文にある。文豪を驚かせたのは、日本三景・天橋立(宮津市)での股のぞきだ。

上半身をかがめ、股間からのぞくポーズに大笑いし、自身もやってみる。海と空が逆転して風景は鮮やかさを増した。〈はしだてや此江(このえ)の上はあまの川〉。

こんな視界の変化は10年前、イグ・ノーベル賞を受賞した研究で世界の話題になった。姿勢を変えると知覚の精度が下がり、遠くのものは近くに感じる。全体に明るく、コントラストは強くなる。露伴の見立て通りである。

股のぞきの知覚研究でイグ・ノーベル賞を受賞した東山篤規氏の記念講演会(2016年10月、宮津市鶴賀)

天橋立の股のぞきが初めて文献に登場して130年という。先日の本紙で若手記者が発祥を調べていた。取材によると、明治中期に地元にあった高級旅館の経営者が発案したらしい。

股のぞきの風習は各地に伝わっている。民俗学では、妖怪の正体や未来の吉凶など「異界」をかいま見る意味があるとか。天橋立の場合も神話にちなみ、宿泊客らから教わった珍妙なポーズを参考にしたのでは。想像するのも面白い。

着物姿での股のぞきを紹介する戦前の観光絵はがき(京都府立丹後郷土資料館所蔵)
人気スポットのビューランドから股のぞきを楽しむ観光客ら

定番になったしぐさで、久しぶりに名勝を眺めた。上下、前後あべこべになり、あちら側の天への架け橋を楽しむ。普段と違った視点でものを見れば、新たな世界も開ける。日々の暮らしも同じかもしれない。

 

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