2023.12.15|

冬の京丹後観光に異変
「旅割」キャンペーンで宿、負担急増

府が再開した「きょうと魅力再発見旅プロジェクト」のホームページ

京都府が12月に再開した旅行代金の一部を支援する観光キャンペーン「きょうと魅力再発見旅プロジェクト」に対し、丹後地域の旅館などで不満や困惑の声が上がっている。新型コロナウイルス禍が落ち着き、冬の味覚・ズワイガニ(松葉ガニ)目当ての客で予約が埋まっていたが、キャンペーン開始で再予約や問い合わせが相次ぎ、業務の負担が増しているためだ。関係者らは「現場の状況が(行政に)全く理解されていない」と話す。

閑散期の冬に観光浮揚策

観光キャンペーンは政府の全国旅行支援の一環で、国内在住者を対象に宿泊費用など最大20%(上限1泊3千~5千円)を割り引く。冬の誘客を促す狙いで、府内は11月13日から予約が始まり、期間は12月1日から27日まで。併せて飲食店や土産物店で使えるクーポンも発行される。

府は、国の補助金11億円を全額活用してキャンペーンを行う。その際、民間の旅行予約サイトを仲介させると、「(仲介料などの)費用が数倍かかり、関連事業者の支援につながらない」(府観光室)ため、利用者はキャンペーンに参加する事業者に申し込むか、旅館や民宿、ホテルに直接予約する形にした。

この方法が逆に、現場に大きな負担を強いることになった。

割引適用で再予約殺到 「支援ありがたいけど、なぜ今」

「キャンペーンが始まってから電話が鳴りっぱなしです」。京丹後市で3軒の旅館を経営する社長はため息をつく。

旅館の1軒は11月初旬、12月から正月休みまで予約で全て満室になった。その後、観光キャンペーンについて知った予約客から「割引を受けるため、予約を再度取り直したい」との要望が殺到し、手続きの二度手間を強いられた。旅館の部屋数は12部屋で、期間中の1日~27日、324部屋分を手続きし直した計算になる。

再予約のほか、キャンペーン内容に関する問い合わせも増え、朝から夜まで電話が鳴り続ける状態に。当然、他からの電話はつながりにくくなり、「いつまで待たせるんだ、というお怒りの声もあります」と社長は話す。「支援はありがたいけど、なぜ今なのか」。あり方に疑問を投げかける。

京丹後の冬の観光 カニシーズンで繁忙期

京丹後市内の旅館のズワイガニ料理。冬の味覚を求め、多くの宿泊客が訪れる

京丹後市観光公社によると、12月の宿泊客数は海水浴シーズンの8月に次いで多く、4月や10月の2倍に増加した。ズワイガニなど高額のコース料理を求める客が多く、観光消費額も年間で一、二を争う。市内の観光消費額を調査している旅行関連会社はキャンペーンの効果は都市部に集中すると見込み、「地方まで波及するか疑問」と指摘する。

市内の別の旅館もキャンペーンの内容にいら立つ。新型コロナウイルス禍で減少した従業員が戻らず、人手不足の中でフロント業務を回しており、キャンペーンに伴う身分証明などに時間を費やす。「お客様を待たせて申し訳ない」と責任者は頭を痛め、「現場の声を聞かずに、観光施設を『支援しています』と、府がアピールしたいからやっているだけではないか」と憤った。

クーポンの発行も、事務の停滞の一因となっている。宿泊客はフロントでQRコードが印刷された用紙を受け取り、読み取ってパスワードを設定し、千~2千円分の電子クーポン券を得られる。だが、スマートフォンに不慣れな高齢者も多く、スタッフがクーポンの発行方法を一から説明しなければならないことも少なくない。

キャンペーンを利用して市内の旅館に宿泊した50代の男性は、スマホからクーポンを取得しようとしたが、設定したパスワードに食い違いが生じ、最終的に2千円分を得るまでに1時間近く要した。

以前は紙での発行もあったが、「電子クーポンが推奨されていて、お客様から『なぜ紙でもらえないんだ』と怒られることもあります」(前出の旅館責任者)

名勝・天橋立のある宮津市でも疑問の声が漏れる。

老舗旅館の主人は、冬直前の告知と実施期間の短さに戸惑った。「宮津の旅館は通常、早くて9、10月ごろから12月分の予約が入る。もう少し早く告知してほしかった。割引支援も、閑散期に入る1月中旬以降もやってもらえたら」と話す。

府観光室は「国の制度に基づいているため、府内一律で実施しなければならず、キャンペーンの参加の可否は旅館に委ねた」と釈明しつつ「府独自の施策を行う際は、市町村の実情に応じた支援をしっかりと行いたい」としている。

 

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日本三景・天橋立を散策する観光客ら(宮津市文珠)
夕方の夕日ケ浦海岸を散策する観光客ら。 近くに温泉街があり、平日もにぎわう(京丹後市網野町浜詰)