2025.01.16|

シリーズ「発酵風土」㊥
移住者継ぐ 山里のみそ
宮津・世屋蔵

出店イベントで販売する世屋みそや無農薬の原料で作ったみそ(舞鶴市北吸)

清流が注ぐ山深い集落の蔵の中で、静かに熟成を待つ。

たるのふたを開けると、赤みがかったみそが芳醇(ほうじゅん)な香りを放った。

宮津市下世屋のみそ加工場「世屋蔵」。蔵を営む重田浩志さん(48)と舞さん(39)夫妻は12月、土地に伝わる「世屋みそ」の袋詰め作業に追われた。

「自然の温度に任せた天然醸造で、ゆっくりと熟成する。うまみと香りが出て、毎日飲んでも飽きない味」

浩志さんは誇らしげに話す。雪が多い半面、夏は涼しい。山あいの気候が適度な発酵を生んでいる。

みそ造りは米を蒸し、こうじ菌を振る米こうじづくりから始まる。菌の増殖が変わるため、蒸し時間を夫妻で話し合い、理想の形に。米こうじに大豆と塩を混ぜたみそを仕込むのは2月ごろ。発酵が進む夏を越え、1年以上熟成させる。

原料は宮津市産に加え、浩志さんの自家製もある。作業のない夏の間、棚田が広がる松尾地区で無農薬の米や大豆を育てている。

「引き継いでくれてありがとう」

そんな声を2人は時折、思い出す。2020年11月にみそ造りを継いだ時、世屋みその愛好家から手紙や電話が寄せられた。

ただ、教わった「師匠」の男性は継承を見届け、3カ月後に亡くなった。以後、夫妻は試行錯誤を重ね、伝統の味を守り続ける。

宮津市の山間部・世屋地区は下世屋、上世屋、松尾など5集落からなる。名前を冠したみそは住民でつくる「世屋農産加工組合」が1970年代から生産してきた。地区には70年前、約1200人が住んでいたが、今は100人を切るほど過疎化が激しい。組合員も減り、元農協職員の男性が1人で切り盛りするようになる。後継者を探す中、重田さん夫妻が世屋蔵を継いだ。

夫妻は2016年、東京から、舞さんの故郷・宮津市内にU、Iターンした。「海と山が近い場所で育った。四季を感じられる自然の中で子育てをしたい」。そんな舞さんの思いが後押しした。

東京生まれの浩志さんは、舞さんと職場結婚した都心のインテリア会社に勤めていたが、移住後、看護師に転職する。宮津で暮らすうち、狩猟や農業をなりわいとする人々と出会った。

「東京にいた時はそういう生活が田舎にあることを知らなかった。頑張る同世代を見て刺激を受けた」

自然とともにある、みそ造りへの挑戦を決めたきっかけだった。

あの日から4年。夫妻は今、宮津市内の小学校でみそ造りを教える。昨春には5人目になる四女も生まれた。「経営を安定させて、家族をしっかりと養いたい。夢は世屋みそを造り続け、次世代に引き継ぐこと」。浩志さんは思いを込める。

途絶えかけた食文化のバトン。この地の風土と人々に引き寄せられた2人が、伝統をつなぐ。

 

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世屋みそを継承した重田浩志さん、舞さん夫妻(宮津市下世屋・世屋蔵)

施設情報

  • 世屋蔵

    販売する世屋みそは450グラムで648円、自家製原料の無農薬みそは同じ量で千円。世屋みそのお勧めのレシピは、肉の入ったみそ汁や豚ロースのみそ漬け。宮津まごころ市(同市浜町)や市内のスーパーで販売し、府北部のイベントにも出店する。