2025.05.14|まち
					異境と異郷
丹後・伊根の観光公害
暮らしを思う心大切に
				
										伊根湾の光景。入り口に浮かぶ青島(中央右)を見ながら遊覧船が走る(京都府伊根町)
									
										遊覧船から眺める舟屋
									ミステリー作家島田荘司さんの新作「伊根の龍神」は、舟屋で知られる丹後・伊根町が舞台だ。龍神が湾に現れた―とのうわさを基に主人公らが奇っ怪な事件に遭遇する。
「異世界」「秘境」「大海原」―。港のまちをこう表し、地域の伝説も織り交ぜて読者を謎めく世界へ導く。
作中にも出てくる青島は、まさに異境かもしれない。湾の入り口に浮かび、崇敬の対象である。母子のクジラを弔う江戸期の墓に漁師が手を合わせ、神社に海の安全と豊漁を祈る。島は地元の許可なく上陸できない。「先祖が託してくれたみんなの財産。今のまま次代につなぐ」と古老は言う。
										多くの外国人観光客が訪れる舟屋周辺(2024年7月)
									近年、伊根町を訪れる観光客が増え、大型連休中もにぎわった。訪日外国人も含め年間40万人を超える見込みで、人口の200倍以上に。特に舟屋群と青島を眺める遊覧船は人気が高い。
気がかりなのは観光公害だ。一部の観光客による舟屋私有地への侵入、車の渋滞で帰宅に時間がかかる住民もいるよう。混み合う路線バス対策では、住民と分ける特急バスが秋から運行する。
<バスが行く漁村石蓴(あおさ)も少し干し>高浜虚子。伊根の魅力は飾らない暮らし、たたずまいだろう。海の恵みに感謝する言葉を聞くと心が改まる。薫風の季節、しばし海辺に触れるのもいい。異郷、異邦の者と心得て。
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										島田荘司さんの著書「伊根の龍神」
									



