2023.09.22|

久美浜湾を豊かできれいな海に
「育てて食べて」 目指すは三方よし

久美浜湾で育てられたマガキ

京丹後市久美浜町の内海・久美浜湾。丹後の幸であるマガキやトリガイの養殖が盛んで、マリンスポーツ愛好者から親しまれている。この湖のような湾の魅力を向上させようと、地元の久美浜一区自治会が環境美化と食、観光振興の「三方よし」を目指す計画をスタートさせた。マガキの「棚」を湾内に多く設置し、餌となる有機物を食べさせて水質改善を図るというもので、市のふるさと納税の新制度を活用する。「おいしいカキを育て、きれいで豊かな海にしたい」と意気込んでいる。

マガキ・トリガイ 丹後の幸生む
穏やかな波 マリンスポーツ盛ん

ドラゴンカヌー大会で、息の合ったパドルさばきでゴールを目指す選手たち
東京五輪に向け久美浜湾で練習するポルトガルのカヌー代表選手団(2021年7月21日)

久美浜湾は同市北西部に位置する内湾。日本海とつながる湾の入り口が幅30㍍、深さ5㍍と日本一閉鎖度が高い。そのため、波がとても穏やかで、カヌーやサップ(SUP、スタンドアップパドルボード)を楽しむ人が多く訪れる。

1988年の京都国体で久美浜湾がカヌーの競技会場となったのをきっかけに「ドラゴンカヌー選手権大会」が誕生した。船頭やかじ取り、こぎ手計10人の息の合ったオールさばきで、船首に竜の頭をあしらった全長11㍍のカヌーが水面をさっそうと駆け抜ける。今や8月の京丹後を代表する風物詩だ。

かつては小学生たちの遠泳授業にも使われ、最近では2021年開催の東京五輪でスペインとポルトガルのカヌー代表選手団の事前合宿地にも選ばれた。

「中学校の野球部の時、ボールが海に落ちて泳いで取りに行きました」。久美浜一区自治会長の谷口潔さん(67)は懐かしむ。いつも静かな波音を響かせ、チヌやアジを釣っては食べた。湾は生活の一部だった。

かつて久美浜湾で行われた小学生たちの授業風景(谷口さん提供)

真冬の海「黒くなっている?」
原因は日本一の閉鎖性か

谷口さんが古里の海の異変に気づいたのは20年の冬。「久美浜湾や近くの河川の上流が黒くなっていた」。会社を退職し、Uターンして4年が過ぎようとしていたが、幼少期まで思い起こしてもこんな現象は記憶になかった。

久美浜湾に詳しい、京都府海洋センターのつくり育てる漁業担当の舩越裕紀副主査(36)は「黒い海」の正体を腐敗したプランクトンや枝葉を含んだ水と予想する。

仕組みはこうだ。

極めて閉鎖性が高く、地形がおわん型の久美浜湾では、春から夏にかけて海面の水温が上昇し、上部が温かい水、下部が冷たい水の層に分かれ、混じり合わなくなる。死滅したプランクトンや魚が海底に沈み、有機物として分解する際に酸素を消費し、海底の酸素が乏しくなる。プランクトンや魚の死骸や腐敗した枝や葉もたまったままだ。

通常、海底の酸欠状態は、秋から冬にかけて海面の水温が低くなり、密度が高まって沈み、下部の海水と混ざり合って解消されるという。

だが、丹後地方特有の「うらにし」の気候がそれを阻む。冬場、雪や雨により海水よりも密度の低い淡水が表面にふたをし、海水の混ざり合いが起きなくなり、酸素のない水が海底にとどまったままとなる。

さらに、湾内よりも塩分濃度や密度の高い外の日本海の水が湾の入り口から入り込み、海底に沈んでいく。そして、酸素の少ない海水を中層まで押し上げる。舩越さんは「この押し上げられた、死滅したプランクトンなどを含む海水が黒く見えた」と推察する。

舩越さんによると、酸欠状態の海水の浮き上がりにより、中層で養殖されていたマガキやトリガイに被害を与えた年もあるといい、「このメカニズムを基に、被害防止につながる次のステップとなる研究が必要」としている。

京丹後市のふるさと納税新制度活用
「カキ棚増量」大作戦へ

京丹後市の新制度を活用し、久美浜湾の水質改善に乗り出した谷口さんら久美浜一区自治会

こうした状況を少しでも改善しようと、同自治会は、市が8月から始めた、市内の各地域の取り組みを寄付金で応援する「地域版ふるさと納税」に手を挙げた。

それぞれの地区が抱える課題の解決に向け、住民自ら計画を立案し、採用されたプロジェクトは市のふるさと納税の特設サイトで紹介され、寄付を募ることができる。集まった寄付の9割がプロジェクトに使われる「支援型」と、返礼品を購入し、寄付金の4割が役立てられる「応援型」の2種類がある。

同自治会は湾の水質調査と改善に役立てる計画を立て、必要経費100万円を募っている。使い道は、養殖カキの棚を増やし、酸欠状態の海水に含まれる有機物を食べさせるという手法を試みる予定だ。

舩越さんは「カキは無酸素状態の海水にさらされて死ぬ危険性はあるが、有機物を消費するのでその分水質は良くなる。また、酸欠状態の海水の周辺は栄養が多く、この部分ではカキが良く育つと期待できる」と評する。

谷口さんは「住民にとって久美浜湾は一番の自慢。豊かできれいな海にしたい」と意欲を示す。

 

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かぶと山展望台から望んだ久美浜湾(京丹後市観光公社提供)