2024.03.06|

由良川橋りょう100周年
♬春色の汽車に乗って…
啓蟄の日に、松本隆さんの言葉を思う

鉄橋は水面から低く、列車の乗客は水上を走っているような気分になる
若狭湾(左奥)と合流する由良川河口に架かる由良川橋りょう。列車は水色の世界をゆっくり進む=宮津市、舞鶴市

川と海と空、視界をさえぎるものはない。昔ながらの鉄橋は低く、列車は水色の世界を走るよう。今春、開通100周年になる京都丹後鉄道・宮舞線(宮津市―舞鶴市)の由良川橋りょうだ。

土木学会が選んだ土木遺産で、京都府内最長の約550メートル。この川幅で両岸まで水をたたえているのは希少と聞き、小旅行の気分に。〈夫と外出(そとで)鉄橋が鳴りひびく春〉細見綾子。

弥生3月、卒業から進学、就職、異動のシーズンを迎え、まちが動き始める。人々だけでなく、虫たちもそう。冬ごもりから地上に顔をのぞかせる、5日は二十四節気の啓蟄(けいちつ)。

今の時節に起こる雷を「初雷(はつらい)」と呼ぶのをご存じだろうか。立春後の最初の雷を表し、「虫出し」とも。天地が一斉に目覚めるとか。

歳時記を開き、冠に「初」の字を付ける季語が春も多いことを知る。ウグイスの初音から初蝶(ちょう)、初蛙(かわず)。初燕(つばめ)や初虹もあり、穏やかな光景が浮かぶ。春を心待ちにし、その年初めての出合いを喜んだ先人の豊かな感性を思う。

♬春色の汽車に乗って…。松田聖子さんのヒット曲「赤いスイートピー」を作詞した松本隆さんは、心を動かす訓練を大切にする。「夕陽を見て綺麗(きれい)と思えるか。なぜそう感じたのかを問い詰める」(延江浩『松本隆 言葉の教室』)と。

震災や戦禍の報に接する日々が続く。春の訪れとともに、当たり前の、ささやかな日常を慈しむ。

 

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「赤いスイートピー」を作詞した松本隆さん(2020年10月、京都市中京区・京都新聞社)
名曲「赤いスイートピー」を収録する松田聖子さんのCD「SEIKO MATSUDA 2020」