2023.05.25|

自然、絶景、食、健康― 丹後の魅力「サウナ」でさらに深く

里山の古民家サウナ 「都会にはない」自然との一体感満喫

サウナが丹後地域を熱くするー。京都府北部の京丹後市や宮津市で、サウナを取り入れた地域おこしや観光振興が活発化している。海や山、川を生かしたアウトドア型から、心地よい予防医療を目指して医師がプロデュースした温浴施設など、個性の光るサウナも開業した。身近ながらも新しい体験スポットが整いつつある。

築70年の古民家の一室でマツの木の香りがほのかに漂う。うず高く積み上げられた石にゆっくりと水をしたたらせるとジジ、ジっと蒸発する音が響き、室内が温まった。山に囲まれた集落にあり、車が通る音も聞こえない。瞳を閉じると、かすかに小川のせせらぎが聞こえる。額から汗が流れ、自然に深呼吸した。

熱した石に水をかけ水蒸気で室内を温める「ロウリュウ」を楽しむサウナファン(京丹後市峰山町鱒留・むす五箇サウナ)
山に囲まれ、川のせせらぎを聞きながら外気浴するサウナファン(京丹後市峰山町鱒留・むす五箇サウナ)

京丹後市峰山町鱒留地区に、昨秋、古民家をリノベーションした「むす五箇サウナ」がオープンした。サウナでまちおこしを目指す地域おこし協力隊の足立樹律さん(30)=同市大宮町=が約500万円をかけ、自ら改修して完成させた。観光宿泊施設「天女の里」から北へ約350メートルの場所にあり、サウナ室のほか、外には休憩用の椅子も用意され、いろり小屋も併設されている。

いろりで暖をとるサウナファン(京丹後市峰山町鱒留・むす五箇サウナ)

汗をシャワーで流し終えた後は、山を眺め、風に浴びながら休憩するもよし、いろりの火を見つめながら暖を取るもよし。「最近では、餅やイモを持ち寄って焼く人もいます。いろり目的で、ついでにサウナというのもありですね」と足立さんは笑う。

同施設は普段、貸し切りの予約制だが、毎週月曜は予約なしで1時間千円(京丹後市民は500円)で入浴できる。地元住民と市外から訪れたサウナファンが一緒に室内で蒸されながら、交流する。足立さんは「地元の方が遠方から来た人に『ここのアイスクリーム店おいしいよ』『観光するならここ』と口コミして、自然と会話が盛り上がっています」としみじみ語る。

4月24日午後4時半。まだ日が高い夕時に、神奈川県小田原市から訪れた会社員杉本達也さん(36)がこうべを垂れて汗を流していた。大のサウナ好きで、同施設には実家の与謝野町へ帰省する際に立ち寄るという。「外気浴をする時の、目の前に広がる山や川のせせらぎと、ロケーションが抜群です。都会では絶対に体験できない」と感嘆した。

足立さんは今年9月に天女の里でテントサウナのイベントを計画しており、「ふらっと立ち寄った人にもサウナの魅力を知ってもらえたら」と意気込んでいる。

観光名所で野外サウナイベント続々 刺激求め「冬」の定番メニューにも

サウナを題材にした漫画やドラマをはじめ、野外サウナイベントをきっかけに、2010年代後半から若者を中心としたサウナブームが続く。この流行に京都府北部の自治体も着目し、昨秋には各地でイベントが相次いだ。

京丹後市では、水平線に浮かぶ夕日が美しく、「常世の浜」と称される網野町浜詰地区を会場にテントサウナイベントがあった。

夏と冬以外の観光客誘致の起爆剤とするため、絶景を眺めながら心身をリフレッシュさせ、地元の飲食店が出店したキッチンカーで丹後グルメも発信した。参加者の中心は20代の男女。サウナで温まった体を水風呂で冷ました後、スマートフォンで日本海を撮影して休憩する姿が多くみられた。

サウナと水風呂に入浴した後、外気浴をする参加者たち(2022年11月、京丹後市網野町浜詰・浜詰夕日の丘)

お隣の宮津市でも、昨年11月に2日間、日本三景・天橋立の海岸から松並木を望めるスポットで初開催され、48人の定員がすぐに埋まった。参加者は大阪や京都の20、30代の男女で、「観光名所でのサウナは貴重な体験」と好評だった。

一過性のイベントにとどまらず、新たな体験型観光のメニューに加わったケースもある。天橋立アクティビティセンター(宮津市中野)は「日本の滝100選」の一つで、新型コロナウイルス禍前に外国人観光客も多く訪れていた「金引の滝」(同市滝馬)でのテントサウナ体験を2月から始めた。滝にうたれる行(ぎょう)とサウナを組み合わせた体験が好評だったことを受け、メニューに加えた。

4人用テントサウナを貸し出し、3時間で2万円と、滝行とセットで1人4千円の2コースを設け、4月末までに約30人が利用した。しっとりとした山中で豪快な滝音を聞きながらサウナを楽しみ、参加者からは「自然の中でリフレッシュできた」と好評だ。

金引の滝のサウナ体験は4月末でシーズンオフとなり、秋の10月に再開する。同センターは「海や川を使った体験は冬場少ないが、寒さや冷たさが刺激になり、新たなファンの獲得を期待したい」としている。

医師プロデュースのサウナで心地よく整い、いつの間にか健康長寿に?!

京丹後市を象徴する「長寿のまち」を体現した温浴施設も昨年11月、同市峰山町杉谷地区に誕生した。5種類のサウナと酵素風呂を併設した「ぬかとゆげ」だ。

プロデューサーの吉岡直樹さん(46)は長年、スポーツ医療やリハビリテーションに携わってきた整形外科医。治療が難しい自律神経系疾患の予防や改善につながる方法を研究する中、慶応大医学部の研究者がサウナの入浴法の一つ「温冷交代浴」で血管の弾力性を増し、心筋梗塞や精神疾患、認知症のリスクを軽減する、と指摘しているのを知った。

温冷交代浴とは、サウナで温まった体を水風呂で冷まし、外の風に当たって休憩する行為を繰り返し、血行を促進させ血管や自律神経を鍛える入浴法だ。サウナ10分→水温16度前後の水風呂→外気浴を3、4セット繰り返すと効果的で、この間に体がリラックスし、脳がぼんやりとしたような心地よさをファンは「整う」と称している。

吉岡さんは「サウナは自律神経系の改善につながる」と、施設の開業を決意。さらには酵素風呂にも着目した。酵素風呂は、微生物の自然発酵による熱で温まった米ぬかの中に、砂風呂のような形で体をつけ、芯から温まる入浴法だ。兵庫県・淡路島には、トップアスリートが体調管理のために通う酵素風呂があり、吉岡さんも訪れた。身体の温かさが数日続いて体調の改善が確認できたことから、施設に取り入れることにしたという。

サウナと酵素風呂を組み合わせ、心地よい気分を味わいながら健康増進にもつながる一石二鳥の体験を目指す。

また、趣向の違う5種類のサウナ部屋も同施設の特色だ。大型モニターが設置され、好きな音楽や映像を楽しめるシアタータイプや、寝転べるタイプ、壁がしっくいでできた和室風、元在日フィンランド大使館職員で、東京の北欧文化発信施設に務めるノーラ・シロラさん(29)がプロデュースし、同国ブランドのクッションや本場の森の中をイメージしたタイプ、そして、段差がなく車いす利用者も入浴できるバリアフリータイプを選べる。天然地下水の水風呂も完備した。

車いすに乗ったまま入浴できるバリアフリーなサウナ室(京丹後市峰山町杉谷・ぬかとゆげ)

開業以来、京阪神を中心に20代~40代のサウナファンが集う。酵素風呂は50代以上のシニア層の心もつかんでいるという。同施設は事前予約制で水着を着用して入浴する。温浴事業部でサウナの普及にも取り組む前田賢人さん(33)は「男女で入れるサウナが全国的に少なく、カップルで訪れる人も多いです」と振り返る。丹後ちりめんで作られたサウナハットの販売や、入浴後には地元バーテンダーが考案したスペシャルドリンクも注文でき、丹後を五感で味わう仕掛けに余念はない。前田さんは「入浴ですっきりし、北部の観光も楽しんでほしい」と期待する。

サウナ入浴には感覚を研ぎ澄ます効果もあるという。丹後への旅行には、海・山・里を巡る前に、サウナを加え、よりディープな体験を求めてはいかがだろうか。

 

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丹後ちりめんで作られたサウナハット(京丹後市峰山町杉谷・ぬかとゆげ)

施設情報

  • むす五箇サウナ

    京都府京丹後市峰山町鱒留1648
    080-8911-6752

    Musu.goka.sauna@gmail.com

    入浴には水着が必要。

  • ぬかとゆげ

    京都府京丹後市峰山町杉谷943
    0772-66-3988

    https://tango-spa.snack.chillinn.com

    入浴には水着が必要。

  • 天橋立アクティビティーセンター

    京都府宮津市中野934-1
    090-9047-5896

    金引の滝のサウナ体験は現在休止中で、10月から再開予定。