2023.05.25|

江戸時代の浮世絵を織物で再現 京丹後の西陣織職人

京都の伝統技能、西陣織の帯を作り続けてきた京丹後市の織物職人が、江戸時代の浮世絵を帯地風の布地に鮮やかに再現した。長年培った手織りの技術が、浮世絵独特の色合いや大胆な構図、細やかな表現に生かされている。工房では〝織物の浮世絵〟を展示、販売しているほか、手織り技術も体験できる。

西陣織の技法で仕上げた「富嶽三十六景」

「富嶽三十六景」 制作に3年

京丹後市網野町浜詰の手織り職人松下義建さん(79)。西陣織の帯の技法を用いて、江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎(1760~1849年)の代表作「富嶽三十六景」を再現した作品46点を2部ずつ3年がかりで作り上げた。

松下さんは父の後を継いで織物業に携わり、約40年間、西陣織の帯を作ってきた。和装需要の減少で受注が減る中、古い着物を裂いて緯(よこ)糸代わりに織り込む「裂(さき)織」職人の道を歩んできた。10年ほど前からは、金箔や銀箔を漆で貼り付けた和紙を糸状に細かく切断して西陣織の帯や装束に織り込む「引箔」の技術を使って、浮世絵を織物で再現する作品に取り組んでいる。

「富嶽三十六景」もその一つ。浮世絵のカラー画像をインターネットで取り寄せ、カラー印刷した紙を2㍉幅に裁断し、緯糸となる絹糸や木綿糸、金糸、銀糸を重ねて経(たて)糸に織り込んだ。北斎が「富嶽三十六景」で描いた「神奈川沖浪裏」に見られる大胆な構図、赤い富士山が印象的な「凱風快晴」の鮮やかな色使い、「尾州不二見原」にある人物の細やかな表情と雄大な風景の対比を再現する図柄が帯地風の布地に浮かび上がっている。

「神奈川沖浪裏」は、大胆な構図が表現されている
色鮮やかな赤い富士山が印象的な「凱風快晴」を再現した作品

「織物で被災地を支援」

「浮世絵の風景で心を和ませるきっかけにしてもらえれば」。松下さんは、2月の大地震で多数の犠牲者が出たトルコの人たちを励まそうと4月中旬、在日トルコ大使館に「富嶽三十六景」を贈った。

トルコは伝統織物の産地でもある。松下さんは京都市内の帯地メーカーが約25年前にトルコのイスタンブールで催した着物ショーで、長女がモデルを務めたことから同国に親しみを持っていた。地震の被害に心を痛め、大使館に作品の贈呈を申し入れたところ、快諾を得られたといい、「トルコには手織り絨毯という伝統産業がある。西陣織の技法を使った作品の良さはきっと理解してもらえる」と話す。

浮世絵の図柄を織り上げる松下さん

「工房では展示、体験教室も」

松下さんの工房「松下庵(しょうかあん)」には、「富嶽三十六景」のほか、江戸時代の浮世絵師、歌川広重の「東海道五十三次」、喜多川歌麿の美人画などの浮世絵を織物で再現した作品を多数展示、販売している。観光客など見学者も受け入れている。手織りの体験教室(要予約、1人2500円)も開いており、「気軽に立ち寄ってほしい」と呼び掛けている。

 

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浮世絵を織物で再現した作品を展示、販売している工房「松下庵」

施設情報

  • 手織り工房 松下庵

    京丹後市網野町浜詰46-13
    松下さん携帯電話:090(1484)5515
    FAX:0772(74)0733