2023.05.29|文化
豊かな自然の循環が育む丹後の暮らし「みどりの日」に思う
大型連休のさなか、宮津市の名勝・天橋立は行楽客でにぎわう。若者や家族連れがマスクを外し、新緑の季節をめでる。
松並木を歩いて初めて分かる価値がある―。以前、地元の古老から聞いた。木陰に吹く薫風や松の厳かさ、穏やかな波の音。心も豊かになる。<緑蔭に染まるばかりに歩くなり>星野立子
葉陰は人だけでなく魚も好む。魚つき保安林をご存じだろうか。起源は藩政時代の魚付(つき)林で、海岸部の森林を指す。海面に影を作り、急な水温の上昇を防ぐ。樹木から餌になる昆虫が海面に落ち、養分も流れ込む。明治以降、保護の対象になり、全国で約6万ヘクタールが指定されている。
京都府北部にも計409ヘクタールが点在し、漁村の伊根にちなむ史料も残る。江戸後期、湾内にクジラが入り込むのは小島の樹影が水深をより深く見せるためとし、海に落ちたシイの実を食べる魚はおいしい、とも。真偽はさておき、森林を大切にした先人を思う。
森が海を育み、海は魚を慈しみ、私たちの生活を潤してくれる。古くから伝わる循環は、近年注目される「ワンヘルス」の考え方にも結び付く。
人も、あらゆる動物も、環境も全てつながり、生態系全体の健康が欠かせない。きょうは、みどりの日。コロナ禍が落ち着いた今あらためて、身近な自然に思いを寄せたい。
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